織物の素材

タイ・美しい竹林の村の織物
(タイ/『美しい竹林の村』のコットン&シルク織物)

織物には様々な素材が使用されます。
織物をつくり上げる天然の糸素材の多くは、綿・絹・麻ですが、その他にもそれぞれの土地の気候風土において身近な動植物の繊維素材が使用された地域もあります。
また、交易によってヨーロッパやアフリカからアジアへともたらされた品々などが織物のアクセントとしてあしらわれ、中にはステイタス・シンボルとされてきた物もあります。
こちらのコーナーでは、こうした主たる素材の綿・絹・麻の特徴と共に、アジアで使用されるちょっと面白い織物素材についてもご紹介致します。

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◆ 綿(コットン)

綿織物

アオイ科のワタの種子の周りから採取される植物繊維(木綿)。
暑く乾燥した気候での栽培に適しており、他の農作物の栽培に適していない雨の少ない乾燥地域で栽培されている事が多い。
採取した綿を繰綿機(綿繰具)にかけて繊維と種子を分離し、綿打ちで繊維をほぐし、紡績し易いようにします。
主成分・・・セルロース

(メリット)
弾力性に富み、柔らかく肌触りが良い。
保湿・吸湿性に富み、静電気がほとんど起こらない。
染色性が良い。
程々の耐熱性がある。

(デメリット)
皺になりやすい。
縮みやすい。

◆ 絹(シルク)

絹織物

蚕の繭から採取される動物繊維で、独特の光沢を持ちます。

【絹にまつわる伝説】
絹の生産は紀元前3000年頃の中国で始まったと伝えられていおり、言い伝えでは、養蚕・桑の種・絹織物の作り方が門外不出の秘伝とされていた約2500年前、中原(黄河流域の平原)からホータン国(タクラマカン砂漠南部のオアシス都市。現在の新疆ウイグル自治区内にあった王国)へ嫁いだ王女が、ホータン王の『蚕を持参してきて欲しい』との要望から冠の中に蚕を隠しいれて持ち出し、蚕のエサとなる桑の木もホーテン国内で幸運にも見つかり、他国での絹の生産が始まったと言われています。
こうして徐々に絹がヨーロッパまで広まり、この交易ルートが「シルクロード」と呼ばれました。
主成分・・・たんぱく質、フィブロイン

(メリット)
染色性が良い。
軽くて丈夫。
吸湿性・通気性が良い。
適度な柔らかさや伸縮性、膨らみがある。

(デメリット)
家庭での洗濯が困難。
変色しやすい。
虫に食べられやすい。

◆ 麻

麻織物

麻は、本来は大麻から作られた繊維を指す名称でしたが、今日では植物の幹や茎、または葉などから採る植物繊維全般を指す総称となっております。
亜麻(リネン/linen)、ラミー(苧麻/ramie)、ヘンプ(大麻/hemp)などがあり、日本でもつくられている上布はラミー(苧麻)を使用した織物となります。

(メリット)
通気性が良く、独特の清涼感がある。
丈夫である。

(デメリット)
硬めで弾力性に乏しい。
均一な染色が難しい。
皺がつきやすい。

◆ その他の織物素材

アジアでつくられる伝統織物には上記の綿・絹・麻の他にも、地域によっては稀有な素材が使用されていることがあります。

マニラ麻(芭蕉)・・・麻の仲間ではありませんが麻のように植物繊維が採れることから麻の字が使用されます。フィリピンのアバカ(abaca)などが知られています。
パイナップル繊維・・・フィリピン・パナイ島特産のピーニャ(Piña) や、インドネシアの織物の極一部で使用されます。
蓮・・・蓮の茎から取った繊維(蓮絲)でつくられます。ミャンマーのインレー湖周辺に暮らすインダー族の織物チャーテインガンが知られています。
羊毛・・・絨毯など
金糸、銀糸・・・ソンケットなど
かつては、樹皮・犬毛・山羊毛などを使用していた織物などもあります。

カチン族腰巻布
(ミャンマー/カチン族の山羊毛腰巻プーカン)

また、雲母片などのミラーワークが加えられた織物や、身近な植物ジュズ玉、

カレン族貫頭衣
(タイ/ジュズ玉があしらわれたカレン族貫頭衣)

貨幣価値のあった貝(子安貝/タカラガイなど)を縫い付けた織物、

ナガ族ボディクロス
(ミャンマー/ナガ族の戦士が纏った子安貝付きボディクロス)

そしてアフリカ・ヨーロッパとの交易によってもたらされた様々なビーズがあしらわれた織物などもあります。
こうした貝や交易品のトレードビーズは貴重品として珍重され、ステイタス・シンボルとして織物に使用されました。

このように、それぞれが生活をする土地において身近な素材、または当時の交易によって手にしたものを使い、個々の特徴を持つ染織文化が発展し、長い時を経て受け継がれてきたことが織物から窺い知れます。

〜 化学繊維について〜

昨今では化学繊維(化繊)を使用した織物もつくられるようになりました。
化学繊維(化繊)が使用され好まれるようになった理由としては、軽い・扱いやすい・手紡ぎ糸よりも切れにくいといったことが挙げられ、日常着としてイカットを身に纏う人々にとっては良い点が数多く見られます。
織物の素材としての化学繊維は、安価なお土産品の素材として使用されるイメージがついておりますが、これは日常の衣服としてイカットのサロンを身に纏うインドネシアのとあるエリアで伺ったお話の一つですが、
「綿よりも乾きやすいという良点がある糸もあり、日々身に着ける衣服の素材として私達にうってつけなので、自分用(実用)として(天然繊維以外の)こうした織物もつくっている」
という織り人の方もいらっしゃいました。
太陽の燦々と照りつける暑い国の多い東南アジアですが、雨季ともなるとザッとスコールが通り過ぎ、あっという間に洗濯物が濡れてしまうことも多々あります。
こういう光景をふと思い出し、一言で化繊とは言っても、その使用される理由には様々あるのだと改めてしみじみ思いました。

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