織り機
近年はオートメーション化が進み、様々な物の製造過程において人力に拠らないものが多くなってきておりますが、東南アジアの国々では、現在も人々の手によって数多くの織物が手織りされております。
一言に手織りのための織り機(織機/手機)と言っても、昔ながらのシンプルな腰機(いざり機)から、効率よく織物をつくるために高機を発展させたバッタン機まで様々にあります。
現在、腰機(いざり機)は、インドネシアではヌサトゥンガラの島々やグリンシンで知られるトゥガナン村などで、そして大陸部東南アジアではベトナム〜ラオス〜タイ〜ミャンマーなどに暮らす山岳民族の人々による織物で主に使用されており、その他の地域では高機による染織が殆どとなります。
こちらのコーナーでは、そうした様々な織り機について写真を交えてご紹介します。
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◆ 腰機(こしばた)
腰機(こしばた)は、英語でbackstrap loomと呼ばれるように経糸を張るための腰当てや腰帯などを備えた織機です。
織り機の原点ともいえる機で、最もシンプルで原始的な織機であることから原始機や、いざり機、地機(じばた)とも呼ばれます。
腰機での織りの場合は、高機のようには幅広の織物はつくれませんので、70cm幅前後が限度となります。
そのため、幅広の大きな布が必要な場合は、同柄の織物を複数枚つくり、接ぎ合わせることによって大きく仕立てます。
こちらは比較的簡易な文様とストライプのコンビネーションの絣布。
この位の織り幅が、腰機で織れるほぼ最大幅となるかと思います。(インドネシア/フローレス島)
こちらは世界的に人気のグリンシンの制作風景。
この位(20p前後)の幅のグリンシンが一番多く見られます。(インドネシア/バリ島)
こちらは幅広に作られているグリンシン。
グリンシンの中では、かなり大幅の部類です。(インドネシア/バリ島)
こちらは絣布と並んでスンバ島名産の浮織り布パヒクンの制作風景です。
サバンナ気候で暑さ厳しいこのスンバ島では、高床式の家の軒下が格好の織り場となります。(インドネシア/スンバ島)
こちらも軒下でのパヒクン作りの風景。幾人もの織り人が集い、織り作業を行っています。
お祖母ちゃんの織り作業をお孫さんが見守っていて、ちょっとこの写真では真面目な面持ちですが、人懐っこく可愛い子でした。
因みに、このお祖母ちゃんが作っているパヒクンは、大きく織り密度の高い大作でした。(インドネシア/スンバ島)
こちらは大きな木の下の木陰での絣布作りの風景。
兎角、私達のような訪問者が村を訪れると、あっという間に村人達が集まってくることが多いのですが、奥の豚くんはマイペースにお食事の様子です。(インドネシア/スンバ島)
豚くんだけではなく、鶏も行きかいます。(インドネシア/フローレス島)
織り上がるまでに長い時間を要するスンバ島絣布。
こうした腰機での織りはなかなか体力を使うもので、この高齢のお婆ちゃんは、休み休み&ゆっくりゆっくりでの織り作業のため、別の意味でも長い長〜い期間での織りとなっているそうです。
そのため、完成前に色褪せが生じちゃったそう・・・。
頑張れ、お婆ちゃん!(インドネシア/スンバ島)
こちらはスンバ島の男性用腰巻ヒンギーの裾にあしらわれる帯部分カバキルを作っている所です。
小さな小さな織り機で、スンバ島ヒンギーのアクセントとして重要な装飾が織られていきます。(インドネシア/スンバ島)
◆ 高機(たかはた)
織り手の座る位置が腰機(地機・いざり機)よりも高いために高機(たかはた)と呼ばれるこの機。
現在では手織り布の大部分がこうした高機によってつくられています。
こちらはラオス北部のタイ・ルー族の人々が暮らす村での織り風景です。
この時は、日常の衣服のベース生地となる緑や紺などの無地織物がつくられておりましたが、タイ・ルー族は浮織りの技術に長けた民族として知られております。(ラオス)
こちらはラオス北部での肩掛け布パービアン作りの風景です。(ラオス)
こちらはビエンチャン郊外での肩掛け布パービアン作りの風景。現代的な色彩で作られています。
ビエンチャン近郊には様々な織り工房が点在しておりますが、過去のベトナム戦争と内戦の激戦地であった織物の名産地サムヌーア(フアパン)周辺で戦禍に巻き込まれた人々がビエンチャン近郊に移住し、こうした工房が運営されるようになったそうです。
現在も、工房の織り手の多くはサムヌーア周辺の出身や、サムヌーアにルーツを持つ人々。
実は、ベトナム戦争で最もアメリカの空爆が激しかった地域が、ここフアパン県(中心地:サムヌーア)からシェンクァン県(中心地:ポーンサワン)に繋がるエリア。美しい織物の陰には、こうした歴史が隠されています。(ラオス)
こちらはビエンチャン郊外の民家での織り風景。
少女のように若い奥さんが、子供をあやしながら織っていました。(ラオス)
こちらはタイ・ナーン中南部のタイ・ルー族の人々が多く暮らす町にある織物工房での風景です。
バッタン機などを使用して浮織り布がつくられております。
ナーンは旅行者も少ないとてものんびりとしたエリアで、その雰囲気を反映するかのように織機の並んだ大き目の工房でも、楽しげで穏やかな織り風景が展開されておりました。(タイ)
こちらは工房の近くにある民家。
工房内ではなく、こうしてご自宅で工房の作品を作っていました。感覚としては内職や家内制手工業といった感じかもしれませんが、もちろん織り技術は逸品です。(タイ)
こちらはタイ・ナーン北部のタイ・ルー族の人々が暮らす村での織り風景。
こちらでも浮織り布がつくられております。艶の出た筬が良い感じです。(タイ)
こちらはインドネシア・バリ島のギャニアールにある緯絣(エンデック)工房の風景です。
以前は高品質の緯絣がこのギャニアールでつくられておりましたが、現在では簡易化された文様や無地などで量産気味に織物が作られるのが主体となってしまいました。
現在では、バリ島の別のエリアで優れた緯絣がつくられています。(インドネシア)
高機番外編。
東南アジアの手織り布は、一般的に人が筬を打ち込みやすい幅(70〜80cm程まで)の大きさで作られることが多く、そのためか、ベッドカバーにもなるような幅広で継ぎ目のない織物は、手織りではないと思われる方もいらっしゃるようです。
しかし、中東の絨毯織りに見られるように、2人がかりで息を合わせて作られる織物が東南アジアにもあります。
例えば、こちらの写真はタイのコットン製品を製造販売されている著名なショップのランプーンにある工房の一つです。
バンコクやチェンマイに立派な店舗を構えるお店ですが、素材となるコットン織物は都市部から離れたこうした素朴な工房で作られていることが多々あります。
また、織物は女性の仕事としてみなされてきましたが、ジャワ島イカットの大判の物などは力のいる織り作業となるため、昨今では男性が織りに参加している場面も増えてきました。(タイ)
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